中学受験

No reason. But YOU CAN DO.

2018年に書いて没になったコラムです。

心を揺さぶるマンガのセリフ

私は数年前から引退後は沖縄の離島で余生を過ごすと決め、「もっていく本」のリストを作っている。昨年そのリストにあるマンガを追加した。『ビックコミック』(小学館)連載中の『BLUE GIANT SUPREME』という作品だ。(現在は第3部『BLUE GIANT EXPLORER』に進んでいます)

主人公の高校生「大」が偶然ジャズと出会い、世界一のサックスプレーヤーを目指して成長していく物語なのだが、ふだん音楽を聞くことさえない私が、「音楽教室に通ってみようかな」と思うくらいにステキな、泣けるマンガだ。

「大」はいくつかの出会いや悲しい別れを経て、私の第3の故郷であるベルリンで、国籍も性格も違う3人のプレーヤーとバンドを組み、初のライブに臨む。

ライブ開始の5時間前、大は世話役のドイツ人にメールを打つ。「ドイツのお客さんは座って静かにジャズを聴きますが、ボク達は今夜すべてのお客さんをスタンディングさせます」「理由はない。でもやってみせます(No reason. But we can do.)」

どれだけ優秀なメンバーが必死に練習を重ねても「絶対」はない。でも彼の言葉は予感や願望ではない。「やれたらいいな」ではなく「やってみせる」という激しく強い意志の表明だ。その強い意志が人を感動させ、ときには運命をも変える。読者の心を打つ作品の主人公はきまって、人もうらやむ才能や権力の持ち主ではなく、真に強い意志をもつ人間だ。

失敗してもかまわない。道はその先に拓けている。

30年以上、6年生の指導を続けてきた。毎年、多くの受験生が志望校の合格通知を手にするなかで、厳しい「後半戦」に挑む教え子がいる。後半戦は競争倍率も高い。身体も心も疲れ果てている。でも僕には「お前は俺の一番弟子だ。だから大丈夫」と励ますことしかできない。

もちろん「大丈夫」などという根拠はどこにもない(No reason)。でも「やってみせる」という強い意志がある限り、必ず道は開ける。いや、道は「拓かれる」ものではなく「拓く」ものだ。そう信じて、彼らの後ろ姿を見送ってきた。

「No reason. But YOU CAN DO.」

あらん限りの勇気と強い意志をもって困難に立ち向かう姿ほど、心を打つものはない。

「No reason. But we can do.」と力強いメールを送った後、「大」たちのバンドがどんなプレイをしたのかは、ネタバレなので原作をご覧いただきたい。この「前振り」から想像するよりも、ずっと大きな勇気がもらえるはずだから。

ABOUT ME
kurotama
元進学塾教師。今年の1月末に健康上の理由で円満退職し、いまは原稿執筆など、在宅でできる仕事をボチボチと始めています。